Phil Greenberg博士の特別講演 "Genetic modification of antigen-specific T cell clones to enhance adoptive therapy of human viral and malignant diseases"をお聞きして

近畿大学医学部第一外科  奥野清隆


 Greenberg博士のstrategyは癌、感染症に対する受動移入療法を成功させるためには如何に効果的なCD8+ antigen-specific CTLを創るか(creating CD8+ T cells)というポイントに集約される。もちろんヘルパー機能を作動させて効率的な環境を整えることは重要であるが、癌局所に集簇してキラ−活性を発揮し、最終的にメモリーを誘導できるのはCD8+ antigen-specific CTLであるという強い信念に基づいている。まず彼は骨髄移植後の免疫抑制状態にある白血病患者におけるサイトメガロウイルス(CMV)感染をドナ−由来のCD8+CTLを受動移入することで完全に予防できることを示した。さらにこの手法でHIV感染症、メラノーマ患者に対してもそれぞれに特異的なCD8+CTLを誘導して受動移入したところそれらは感染箇所、腫瘍部位に適切に集簇して抗ウイルス(抗腫瘍)効果を発揮した。さらに長期間にわたって生体内で生き延びる効果的なCTLを創るためにex vivoでcytokine receptor (GM-CSFR, IL-2R)を発現させたCTLや、それらのchimeric receptorを発現させたCTLを誘導し、実際にこれらが生体内で長期間有効に作用しうることを示した。またMark Davis博士らとの共同研究でpeptide-MHC tetramerを用いてFACSにて抗原ペプチド特異的CTLを容易に定量できることや、このtetramerによってソーティング、クローニングを行うことでpeptide刺激しただけのheterogeneousな末梢血リンパ球集団から高親和性TCRを有する抗原ペプチド特異的CTLを選択的に増殖させうること、さらにはそれらを実際のメラノーマ患者に受動移入するという魅力的な臨床的トライアルを示した。さらに今後の展望としてTERT(telomerase reverse transcriptase)をはじめ、標的とすべきいくつかのcandidate moleculesを紹介してくれた。  

 これらの多彩な内容を例の早口で一気に捲し立てたものだから初めて彼の講演を聞いた方は驚かれたかもしれない。小生は濱岡教授のご紹介によって彼のラボで研究した初めての日本人である。渡米当初、同僚のフェローたちに「Philの英語は早口でBrooklyn accentsが強いから(我々でも判りづらいことがあるのに)お前は本当にかわいそうだ」と同情されたことを懐かしく思い出した。一時、体調を壊してラボを縮小したと話していたころは本当に心配したが、今では週末の草サッカーもやってるし、ラボも(お前がいたころより)ずっと広くなったと元気に話してくれた。ところでみんな同情してくれるから何も言わなかったけれど小生にとって当時、Philの英語だけが特に判りづらかったわけではなかったことを最後にこっそり白状しておく。