ペプチドワクチン臨床試験のガイドラインへの提案

久留米大学外科 山名 秀明


 癌ペプチドワクチンの臨床試験を開始するにあたり、本邦においても新GCPに基づいた臨床試験プロトコールの作成が必要となる。

 癌ワクチンの臨床試験において、当薬剤を抗悪性腫瘍薬として取り扱うか、もしくは免疫賦活剤として取り扱うかによって試験の内容が多少異なってくる。そこで、癌ワクチン療法の欧米における現状を検索してみると、米国国立癌研究所(NCI)では既に41の第I相試験が登録され、このうち39試験は高度進行癌患者を被験者としていた。我々の開発したSART-1ペプチドは、HLA-A24拘束性の癌ペプチドワクチンであり、SART-1抗原陽性の癌細胞を選択的に障害する薬剤と考えられることから、抗悪性腫瘍薬として取り扱うべきと考えた。癌ペプチドワクチンを抗癌化学療法剤と同等のプロトコールの下で施行することには若干の問題があるが、我が国には未だ癌ワクチンの臨床試験ガイドラインは作製されていない。そこで、今回のSART-1ペプチドワクチンの第I相臨床試験プロトコールは、基盤的癌免疫研究会幹事会並びにJCOG臨床試験審査委員の方々の御助言とNCIのMART-1第I相臨床試験を参考とし、1998年に発行された“抗悪性腫瘍薬の第I相臨床試験のガイドライン”に基づいて作成した。ガイドラインでは、「新規抗悪性腫瘍薬は有害反応が必発である一方で、期待する治療効果は未確定である。そのため、第I相試験は標準的治療法のない特定されたがん患者で行う必要がある」と記されている。また、第I相臨床試験の実施にあたっては、ガイドラインに記載された実施施設及び治験責任医師の条件等を満たすことが必須で、実施施設数は単一施設で行うことが原則とされている。また、第I相試験では毒性判定は全項目について行う必要があり、今回の試験ではJCOG‐CTCを使用した。また、癌ペプチドワクチンの第I相試験プロトコールの作成では、ガイドラインには「第I相試験の第一の目的は非臨床試験結果より臨床導入を予定している投与法について、最大耐性量(MTD)と第II相試験のための推奨容量(RD)または最大許容量(MAD)を推定すること」と記載されており、SART-1ペプチドのprimary endpointはMTDの推定(薬剤安全性の評価)、secondary endpointはCTL誘導の有無(有効性の評価)とし、この両者から第II相試験に移行するためのRDを決定することとした。しかし、SART-1ペプチドと不完全フロインドアジュバンドによる第I相試験では顕著な抗腫瘍効果を期待するとこは困難であり、当試験では薬剤の安全性と末梢血のCTL誘導能のみを評価することとし、両者が確認された場合にのみ第II相試験に移行できるように規定した。

 第I相試験の成果によって第II相試験に移行できた場合には、新たに臨床的効果が期待されるサイトカインを併用投与して抗腫瘍効果を見極める必要があり、次期臨床試験はPhase I/II trialとして種々のサイトカインの中から有効なものを選定する臨床試験が必要になる。そこで、第I相試験終了後は学会レベルで検討協議を重ね、多施設共同試験として適切なプロトコールを作成し、有効性を評価すべきと考えている。また、現時点では癌ペプチドワクチンの臨床試験プロトコールは前述のガイドラインに則って作成するしかないが、今後施行される幾つかの臨書研究結果を基に、癌ワクチン療法に適した臨床試験ガイドラインの作成のため、学会・研究会・班会議等で協議を重ねる必要がある。